研究背景・概要

力学問題の解決において学習者が正しく問題を解けないとき、学習者の問題への理解や用いた知識には誤りや不足点があると考えられます。しかしながら、これら誤りや不足点を通常の問題解決やそこでの解答から見つけ出し、修正していくことは容易とはいえません。そこで本研究では問題間の差分の利用問題解決過程の診断という2つのアプローチにてこのような困難さへの解決を行っています。
問題間の差分を利用した学習支援方法としては、学習者の解答の正誤から次に取り組むべき問題を制御する漸進的問題演習を取り扱っています。また、問題解決過程の診断に着目した支援として、理解の外化活動を取り扱っています。
またこれらの学習支援方法には効果が期待される一方、個別対応や課題の用意といった教授者側への負担の増加や、活動自体の困難さという学習者への負担の増加が予想されます。そこで本研究ではこれら支援活動実現のため、計算機システムを利用した支援環境の構築を行っています。

漸進的問題演習

演習概要

問題演習で出題される問題の順序には意味があるとされており[1]、問題構造が徐々に複雑になるよう設計された問題系列は問題解決に良い影響を与えるとされています[2]。このような観点から本研究では、学習者が問題に正解したときには少し複雑化された問題を、正解しなかったときには少し簡単化された問題を次に出題する漸進的問題演習を取り扱っています。
    
このような問題演習では、学習者の取り組むべき課題は二つの問題の差分として明確化されるといえます。

漸進的問題演習のシステム化

漸進的問題演習のためには大量の問題を用意し、それらを網羅的に関連付け、またそれらを学習者に合わせて出題する必要があります。本研究では先行研究[3]での派生問題の自動生成機能を用いることで、高校物理・力学での漸進的問題演習への支援システムを作成しています。

システムにおいて学習者は、

  1. 初期問題、目標問題を設定する
  2. 与えられた問題に解答する
  3. 解答が正しければ少し複雑化された問題に、正しくなければ少し簡単化された問題に遷移する
  4. 目標問題に正解するまで2.と3.を繰り返す

といった流れで問題演習を行います。
また、システムには以下のような特徴があります。

  • 多様な問題経路:システムは設定された目標問題に対し可能な限り多くの派生問題を生成することで、目標問題への多様な問題経路を生成します。このことは、学習者により適した問題演習を行わせることに繋がるといえます。
  • 学習者による問題選択:学習者が次に解くべき問題の候補が複数ある場合、学習者自身に問題を選択させることで、問題間の関係をより意識させることができると考えられます。
  • 不正解時の支援:学習者の解答が正しくないとき、簡単化された問題に取り組ませることで、問題解決への支援を行います。またこのような支援に加え、一般的な問題演習での「もう一度同じ問題を解く」「解説を見る」といった選択も可能となっています。
システムの実践的利用
2012-02-02
広島商船高等専門学校
2012-02-03
広島商船高等専門学校

誤りの可視化:Error-Based Simulation

演習・支援概要

学習者の誤りを単に否定するのではなく,仮にその誤りが正しいとした場合に,どのようなおかしな結果が導かれてしまうかをシミュレートし,学習者自身にそれが誤りであることを気づかせることを目指した「誤りに対する指摘の枠組み」である.思考実験のシミュレーションの1種であると位置づけることができる.
理論的,技術的,あるいは実践的な研究を行っている.

システムの実践的利用


理解外化支援

演習・支援概要

文章で書かれた問題に数式を適用して解決するためには、問題への『理解』の過程が重要かつ困難であるとされています[4]。しかしながらこの理解の過程は学習者の頭の中で行われることも多く、そこへの診断・修正は容易とはいえません。
このような診断の実現のための方法の一つとして、学習者による理解の表現である外化活動の利用が考えられます。この外化活動には理解の促進や整理、また理解内容への評価につながるといった効果が期待される一方、その活動自体が学習者への負担となり得ます[5,6]。 そこで本研究では、外化のための記述方法や手順を明確に定義することで、学習者の理解を外化させ、そこへの診断、及び修正のためのフィードバックの実現を行っています。
本研究では外化表現形式として、意味ネットワークでの表現形式を用いています。

⇓意味ネットワークでの表現⇓

また、力学問題解決においては複数の理解内容が存在するという観点から、表現に対し段階的な操作を定義しています。

外化支援環境のシステム化

学習者の外化活動を促し、またそれらに診断やフィードバックを与える場合、学習者個人々々への対応が必要と考えられますが、教授者側への負担や時間的な制限などから、それらは容易とはいえません。そこで本研究では、学習者の外化活動の支援環境実現のための計算機システムの開発を行っています。

システムでの学習においては、

  1. 学習者による自身の理解の外化操作
  2. システムによる誤りの診断
  3. 表現が正しければ次の段階に進む,間違っていればシステムはフィードバックを返す

といった流れで問題演習を行います。
また、システムには以下のような特徴があります。

  • 段階的な外化操作:本研究では力学問題の解決には複数の内容の理解が必要であるとの考えから、それぞれの理解内容の外化に適した操作を学習者に行わせることで、理解内容の詳細な外化を行わせています。
  • 各操作への診断とフィードバック:システムは学習者の各操作に対し診断を行い、またその結果に応じたフィードバックを返します。
  • Kit-Build方式の利用:システムによる外化表現への診断の際、学習者が意味ネットワーク内で用いる言葉表現の違いが、診断の妨げと成り得ます。そこで本研究では外化の際、学習者に正解となる表現を分解して与え、それらを組み立てさせることで理解を外化させる「Kit-Build方式」[7]を利用しています。この方式の利用は、診断の実現に加え、理解の外化という不慣れな作業への足場掛けの効果も期待されます。

参考文献

  1. 松居辰則,平嶋宗:”学習課題・問題系列のデザイン”,人工知能学会誌,Vol.25,No.2,pp.259-267(2010)
  2. K. Scheiter, P. Gerjets: “The Impact of Problem Order: Sequencing Problems as a Strategy for Improving One Performance”, Proc. of the 24th Annual Conference of the Cognitive Science Society, pp.798-803(2002)
  3. 大川内 祐介,上野 哲也,平嶋 宗:“派生問題の自動生成機能の開発とその実験的評価”,人工知能学会論文誌 27巻6号A,pp.391-400(2012)
  4. Polya, G.: “How to solve it”, Princeton University Press(1957)
  5. Collins, A., Brown, J, S.: “The Computer as a Tool for Learning Through Reflection”, In Heinz Mandl and Alan Lesgold, editors, Learning Issues for Intelligent Tutoring Systems, pp.1-18, SpringerVerlag(1988)
  6. 三宅なほみ,白水始:“外化”,認知心理学辞典,共立出版株式会社(2002)
  7. 山崎和也,福田裕之,舟生日出男,平嶋宗:“Kit-Build方式による概念マップのインタラクティブ化”,人工知能学会第55回ALST研究会,pp.59-64(2009)